電力消費の半分を担うモーター ― IE2・IE3・IE4の進化をたどる

目次

  1. きっかけ ― 経産省がモーターの省エネ基準を引き上げる
  2. そもそも「IE区分」とは何でしょうか
  3. IE2→IE3→IE4はいつ・どう進んだのか
  4. なぜ効率を上げ続けるのでしょうか
  5. 高効率化のメリット
  6. 見落とされがちなデメリット・落とし穴
  7. これからどうなる ― IE4の時代とIE5

2026年に入り、経済産業省が産業用モーターに求める省エネルギー基準を引き上げる、という報道がありました。工場の機械を動かす「モーター」は、私たちの生活から少し遠い存在に思えますが、実は国内の電力消費のおよそ半分を占めるとされる、とても大きな存在です。今回は、そのモーターの効率を示す「IE区分」が、IE2からIE3、そしてIE4へとどのように進化してきたのか、その時期と経緯、メリットとデメリットを整理してみました。

1. きっかけ ― 経産省がモーターの省エネ基準を引き上げる

経済産業省は2026年、省エネ法に基づく「トップランナー制度」で定めるモーターのエネルギー効率の基準を引き上げる方針を示しました。これまでは国際規格「IE3」に基づく効率を求めてきましたが、今後はより高効率な「IE4」に準拠した製品の普及を目指すという内容です。

あわせて補助金も強化されました。既存モーターからIE4準拠品へ置き換える際の補助率は、2026年度から従来の3分の1から2分の1へ引き上げられ、新規にIE4準拠品を導入する場合にも5分の1の補助が新設されました。規制と補助の両輪で、より高効率なモーターへの置き換えを後押しする構図になっています。

では、この「IE3」「IE4」とは、そもそも何を表す言葉なのでしょうか。

2. そもそも「IE区分」とは何でしょうか

IEは「International Efficiency(国際効率)」の略で、モーターのエネルギー効率を示す国際的な格付けです。国際電気標準会議(IEC)が定めた規格 IEC 60034-30 によって決められており、数字が大きいほど効率が高くなります。

区分は次のように分かれています。

  • IE1:標準効率(Standard)
  • IE2:高効率(High)
  • IE3:プレミアム効率(Premium)
  • IE4:スーパープレミアム効率(Super-Premium)
  • IE5:ウルトラプレミアム効率(Ultra-Premium、将来の区分)

クラスが1つ上がるごとに、効率はおおむね1ポイント前後ずつ向上するとされています。「たった1%」と感じるかもしれませんが、モーターは24時間動き続ける設備も多いため、わずかな効率差でも年間を通すと大きな電力削減につながります。パソコンでいえば、消費電力の小さなCPUへ世代交代していくのと、考え方は似ています。

3. IE2→IE3→IE4はいつ・どう進んだのか

この区分は、まず国際規格として定められ、各国がそれを自国の規制に取り込む、という流れで広がってきました。主な経緯を時系列で整理すると、次のようになります。

時期 主な動き
2008年 国際規格 IEC 60034-30 が制定され、IE1〜IE3が定義される
2011年 EUでIE2が新規モーターの最低基準として義務化される
2013年 日本で三相誘導電動機がトップランナー制度の対象に追加(公布)。基準はIE3相当
2014年 国際規格が IEC 60034-30-1 に改定され、新たにIE4区分が追加される
2015年 日本でトップランナー基準(IE3相当)が適用開始。EUでもIE3義務化が段階的に始まる
2021年 EUで新規制が施行され、対象範囲が拡大される
2023年 EUで一部の出力帯(75〜200kW)にIE4が義務化される
2026年 日本がIE4への引き上げを検討。2026年内に作業部会で時期・上げ幅を議論する方針

こうして見ると、日本は2015年にIE3を導入し、世界の水準に追いついたものの、欧州が先行してIE4へ進んでいる状況です。日本もいよいよIE4へ、という流れの中に、今回の経産省の方針があるわけです。なお、日本でIE3が導入された際の効率改善率は、出荷台数の加重平均で約7.4%とされています。報道によれば、現行のIE3基準では平均87.6%以上という効率がメーカーに求められています。

4. なぜ効率を上げ続けるのでしょうか

理由はシンプルで、モーターが消費する電力があまりにも大きいからです。産業用モーターは、工場のベルトコンベヤーや切削機械、コンプレッサー、ポンプ、送風機など、ありとあらゆる機械の動力源として使われており、国内の電力消費の半分ほどを占めるとされています。

これだけ大きな割合を占めるため、モーターの効率をわずかに上げるだけでも、国全体で見れば膨大な省エネ効果が生まれます。日本電機工業会の試算では、国内のモーターがすべてIE4準拠品に置き換われば、日本の電力消費量を年間でおよそ3%削減できる見込みとされています。これは脱炭素(CO2削減)だけでなく、エネルギー供給の安定にもつながると考えられており、政策の重点分野になっています。

5. 高効率化のメリット

高効率モーターへ置き換える最大のメリットは、やはり電気代の削減です。モーター本体の価格は標準品より高くなりますが、運転時間が長い設備ほど、消費電力の差が積み重なり、数か月から数年で価格差を回収できるケースも少なくありません。

また、消費電力が減ればCO2排出量も減るため、近年重視されている環境報告やサステナビリティの観点でもプラスに働きます。設備を新しく導入したり更新したりするタイミングで高効率品を選んでおけば、長い目で見て無理なく省エネを進められる、というわけです。導入の手間を考えても、長期的には合理的な選択といえます。

6. 見落とされがちなデメリット・落とし穴

一方で、高効率モーターには現場で注意すべき落とし穴もあります。「効率が良くなる=いいことばかり」とは限らない点は、知っておきたいところです。

始動電流が増え、ブレーカーが落ちることがある

高効率モーターは、損失を減らすために内部の抵抗を下げる設計が採られます。その結果、運転時の効率は上がるのですが、起動した瞬間に流れる「始動電流」はかえって大きくなる傾向があります。

ここで実感が湧きやすいのが、実際のリプレース事例です。あるポンプ用15kWモーター(4極)を、標準効率のIE1から高効率のIE3へ載せ替えたケースでは、次のような変化が報告されています。

項目 IE1(標準効率) IE3(プレミアム効率)
始動電流(事例値) 347 A 484 A(約1.4倍)
定格電流(事例値) 57.4 A 58.8 A(約2%増)
力率(試算) 約86% 約82%
消費電力=入力電力(試算) 約17.1 kW 約16.7 kW
軸出力(モーターの定格) 15 kW 15 kW
効率(試算) 約88% 約90%

※始動電流・定格電流は現場のリプレース報告値です。力率・消費電力・効率は、傾向を示すために代表値を当てて計算した試算値で、実際の値は機種・メーカーにより異なります。

この表で注目したいのは、二つの「増えている数字」と「減っている数字」が同居している点です。まず起動の瞬間だけ流れる始動電流が約1.4倍に跳ね上がっていること、そしてふだん流れる定格電流もわずかに増えていることです。にもかかわらず、電気代に直結する消費電力(入力電力)はおよそ17.1kWから16.7kWへ減っています。同じ15kWの仕事をさせるのに、引き込む電力は少なくなっている、というわけです。

「電流が増えたのに消費電力が減る」のは一見ふしぎですが、これは力率(りきりつ)が関係しています。IE3では鉄損を減らすために鉄心の磁束密度を高める設計が採られることがあり、その副作用で力率がやや下がる場合があります。力率が下がると見かけの電流は増えますが、効率そのものは向上しているため、電気を仕事に変える割合は改善しています。つまり「電流=電気代」ではなく、電気代に効くのはあくまで消費電力(入力電力)の方なのです。

問題は始動電流の増加の方です。普段は同じように見えても、スイッチを入れた一瞬だけ大きな電流が流れるため、古い設備でモーターだけを高効率品に交換すると、既設のブレーカーがこの始動電流に耐えられず、起動のたびに落ちてしまう、という不具合が起こり得ます。

もう少し身近な出力で見てみましょう。工場でよく使われる11kW(4極・200V級)クラスでは、定格電流はおおむね40〜45A程度ですが、直入れ(じかいれ)始動の瞬間にはその6〜8倍にあたるおよそ300〜360A前後が流れるとされています。わずか数秒のこととはいえ、これだけの電流が一気に流れるため、配線やブレーカーの設計はこの始動電流を見越しておく必要があるのです。実際、IE3が普及した時期には、ブレーカーの容量見直しや、始動電流に対応した専用品への交換が各地で必要になりました。「モーターを高効率品に替えただけ」のつもりが、配電盤まわりの工事に発展する――省エネ化の意外な落とし穴と言えるでしょう。

「モーターだけ交換」で逆に電気を食うことがある

高効率モーターは標準品より回転数がわずかに速くなる傾向があり、ポンプやファンをそのまま回すと仕事量が増え、結果として消費電力が増えてしまう場合があります。省エネのつもりが「増エネ」になる、という逆転現象です。これを避けるには、回転数や流量を従来と同じになるよう調整する必要があります。

IE4は実現方式が分かれる

IE4は、従来型の誘導モーターの改良だけで達成するのが難しくなる領域です。そのため、インバータと組み合わせた同期モーター(永久磁石式など)で実現する製品も増えています。この方式では始動の仕組みが変わるため、始動電流の問題は起こりにくくなる一方、インバータ側の対策が新たに必要になります。導入の際は、検討すべき項目がIE3までとは変わってくる点に注意が必要です。

7. これからどうなる ― IE4の時代とIE5

日本では2026年内に作業部会が開かれ、事業者の意見も踏まえてIE4への見直し時期や上げ幅が決められていく見通しです。補助金がすでにIE4を後押しする形に強化されていることもあり、今後は新規導入も更新も、IE4が標準になっていくと考えられます。

さらにその先には、IE4を上回る「IE5」も将来の区分として規格上は描かれています。普段は意識することの少ないモーターですが、その効率を1ポイントずつ着実に高めていく地道な取り組みが、国全体の電力と、私たちの暮らしを静かに支えている――そう考えると、少し見方が変わってくるのではないでしょうか。