なぜドラッグストアは近くに何軒も立つのか?戦略検証してみた

はじめに――似た店が近くに何軒も?

自宅の周辺を歩いていると、ドラッグストアがやたらと目につくようになりました。しかも、ほぼ同じ品揃えの店が、徒歩圏内に何軒も立ち並んでいます。

「客が分散するだけじゃないのか?」「商売として成り立つのか?」と素朴な疑問が湧いてきました。調べてみると、これはただの偶然ではなく、いくつかの戦略的な力が組み合わさった結果でした。実際に自宅周辺の地図で検証しながら、その構造を整理してみました。

ドラッグストアの収益構造

まず「なぜ近距離でも成立するのか」を理解するには、ドラッグストアの収益構造を知る必要があります。

現代のドラッグストアは、医薬品だけで成り立っているわけではありません。食品・飲料・日用品を「スーパーより安く」提供して集客し、粗利率の高い医薬品や化粧品で利益を稼ぐ二重構造になっています。

🛒 食品・日用品:安さで集客する「撒き餌」
💊 医薬品・化粧品:粗利率が高く、ここで稼ぐ

この構造のおかげで、商圏が非常に狭くなりました。スーパーより近く、コンビニより安いという独自のポジションを持ち、徒歩・自転車で来られる半径500m〜1km程度でも十分に成立します。商圏が狭いから、近距離に複数店舗が並んでも、それぞれが別々の客層を取れるわけです。

「ドミナント戦略」とは何か

近くに何軒もある理由を調べると、まず「ドミナント戦略」という言葉が出てきます。これは1つの企業が特定エリアに意図的に集中出店する戦略です。

メリット 内容
物流効率 近距離の複数店舗をまとめて配送できる
ブランド刷り込み 「この街はXXの街」という無意識の認識が生まれる
競合排除 先に好立地を押さえ、後発が入れなくなる
人材融通 近隣店舗でスタッフを融通しやすい

セブン-イレブンが特定エリアに集中出店することで知られるように、ドラッグストア業界でも大手チェーンが積極的に活用している戦略です。

自宅周辺で戦略検証してみた

「では自分の家の周りはどうなっているのか」と思い、自宅近くのランドマークを中心に、実際に地図で店舗数を調べてみました。

📍 調査結果

半径500m以内:2店舗

半径1km以内:6店舗

1kmを超えたとたんに一気に4店舗が加わりました。ランドマーク周辺は工業・文化施設が多いゾーンのため500m圏内は少なめですが、そこを超えると住宅密集エリアに入り、一気に増えました。

ところが6店舗の系列を確認すると——

距離 店舗名 系列
約300m スギ薬局 A店 スギ薬局
約500m ドラッグセイムス B店 セイムス
約800m スギ薬局 C店 スギ薬局
約900m マツモトキヨシ D店 マツキヨ
約900m サンドラッグ E店 サンドラッグ
約1000m セキ薬局 F店 セキ薬局

スギ薬局が2店ある以外は、すべて異なるチェーンでした。これはドミナント戦略(1社の集中出店)とは言えません。では何が起きているのでしょうか。

ドミナントではなく「競合追随出店」だった

ファーストフード業界にこんな話があります。

「バーガーキングはマクドナルドの隣に出店する」

理由はシンプルです。マクドナルドは世界最高水準の出店立地分析システムを持ち、人口動態・交通量・購買力などを徹底的に調べて出店場所を決めます。バーガーキングはその隣に出ることで、リサーチコストゼロで優良立地に入れるというわけです。

これを「競合追随出店」と呼びます。今回の検証エリアで起きていることもまさにこれでした。

スギ薬局が先に出店

「スギが選んだなら間違いない立地だ」

セイムス・マツキヨ・サンドラッグが周辺に続々と出店

各社の出店担当者は「競合がいる=需要が証明された場所」と読みます。これは偶然の集積ではなく、各社が独立に下した合理的な判断の結果です。

なぜ共存できるのか

それでも「客が分散して共倒れにならないのか」という疑問は残ります。答えは意外とシンプルでした。

客が店を選ぶ基準は「品揃え」ではなく「距離」

地図上では6店舗が重なって見えても、各店舗の実質的な主力商圏は半径300〜400m程度です。徒歩や自転車で来る客は「一番近い店」にしか行きません。結果として、地図上では重なっていても、実際の客層はほぼ自然に分割されているわけです。

エリアの人口規模と店舗数を照らし合わせると、1店舗あたりの商圏人口はドラッグストアの採算ラインとされる3,000〜4,000人前後に収まっていました。ぎりぎり全店が成立する規模感です。

3つの力が組み合わさっている

今回の検証をまとめると、「なぜドラッグストアが近くに何軒も立つのか」は、以下の3つの力が組み合わさった結果でした。

内容
①競合追随出店 先行他社が選んだ「証明された立地」に各社が乗っかる
②集積効果 複数店が集まることで来街動機が生まれ、エリア全体が活性化する
③商圏の自然分割 客は「一番近い店」に行くため、客層が地理的に自動分割される

ドミナント戦略はあくまでこの一側面に過ぎず、実態は複数の力が絡み合った構造でした。

おわりに

「似た品揃えの店が近くに何軒もある」という光景は、一見すると非合理に見えます。しかし実際には、各社が合理的に動いた結果として、必然的に生まれた集積でした。

近所のドラッグストアが増えた本当の理由は、「戦略的な陰謀」でもなく「偶然の集中」でもなく、「証明された立地に各社が独立して引き寄せられ、客が距離で自然に分かれている」という、シンプルな構造にありました。

次に近所のドラッグストアに立ち寄ったとき、「自分はなぜこの店を選んだのか」を考えてみると、答えはきっと「一番近かったから」のはずです。

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