



先日、自宅の分電盤に「感震ブレーカー」を設置しました。パナソニックのBQX702という製品です。地震のときに自動で電気を止めてくれる装置で、地震大国の日本では備えとして注目されています。
設置してみると、思っていた以上に奥の深い装置でした。どんな目的で、どんなしくみで動くのか。そして、いざというときの遮断タイミングをどう設定すればよいのか。調べたことを整理して、これから導入を検討される方の参考になればと思い、記事にまとめました。
感震ブレーカーを設置しました
感震ブレーカーとは、一定以上の揺れを感知したときに、自動的に分電盤の主幹ブレーカ(家全体の電気の元)を落としてくれる装置です。今回設置したBQX702は、既設のパナソニック製分電盤「コンパクト21シリーズ」の空きスペースに追加できるタイプで、分岐回路1回路分のスペースがあれば取り付けられます。
今回の設置は、実はとても簡単に終わりました。以前に分岐ブレーカーを交換していたことがあり、その空きスペースをそのまま活用できたためです。作業としては、本体を分岐回路のスペースに「押し込む」だけ。あとは、地震を感知したことを主幹ブレーカに伝えるための線(擬似漏電出力線)を、主幹ブレーカ1次側のN相端子に共締めするだけで完了しました。工具を使わずコネクタで着脱できる構造になっているのも、施工のしやすさにつながっています。
ただし、簡単とはいえ、この取り付けには電気工事士の資格が必要です。分電盤の主幹ブレーカ1次側という、家全体の電気の元となる部分を扱う作業ですので、資格をお持ちでない場合は必ず電気工事店に依頼してください。
製品は2万円弱で購入しました。防災設備としては比較的手が届きやすい価格帯だと思います。
設置そのものは簡単でも、この製品には「遮断までの時間」を選べるスイッチがあり、その選び方で防災効果が変わってきます。まずは、なぜこの装置が必要なのか、その目的から見ていきます。
感震ブレーカーの目的|「通電火災」を防ぐ
通電火災とは何か
感震ブレーカーの目的は、地震の後に起こる「通電火災」を防ぐことです。通電火災とは、地震で停電した後、電気が復旧(復電)したときに発生する火災を指します。
意外に思われるかもしれませんが、地震火災の多くは揺れの直後ではなく、停電から数時間〜数日後に発生します。避難して家に誰もいない間に電気が復旧し、発見や初期消火が遅れて延焼が広がる。これが通電火災の怖いところです。
発火しやすい4つのパターン
通電火災は、主に次の4つのパターンで発火します。
①転倒した電気機器の再通電
最も多いパターンです。電気ストーブやアイロン、こたつなどが倒れたまま、あるいは布団や衣類などの可燃物に接触したまま停電し、後で通電が復旧すると、発熱部がそのまま可燃物を加熱して出火します。
②損傷した配線・機器のショート
揺れや家屋の変形で配線の被覆が破れたり、機器内部が破損したまま通電すると、傷んだ箇所に許容量を超えた電流が流れて火花が発生します。ガス漏れが同時に起きていれば爆発に至ることもあります。
③水濡れによるショート
浸水や漏水で分電盤や電気機器の基板が濡れた状態で通電すると、本来流れないはずの経路に電流が流れ、発火します。
④屋外配線の再送電
屋内だけでなく、地震で切れた屋外の配線が接地した状態で送電が復旧し、そこで発火するケースもあります。
東日本大震災でも電気関係の出火が多かった
東日本大震災では、原因が特定された火災の過半数が電気関係の出火だったとされています。感震ブレーカーが「揺れを感知した時点で自動的に主幹を落とす」ことが有効とされるのは、こうした通電火災を根本から断つことができるからです。
感震ブレーカーのしくみ
揺れを感知する「加速度センサー」
感震ブレーカーが揺れを検知する心臓部が「加速度センサー」です。BQX702には、MEMS(微小電気機械システム)と呼ばれる方式のセンサーが内蔵されていると考えられます。
センサーの内部には、シリコン製の微小な「おもり」がバネ状の構造で支えられています。地震で筐体が揺れると、慣性の法則によって、おもりはその場に留まろうとし、周囲のフレームに対して相対的にズレます。このズレの量が加速度の大きさに対応します。
ズレを電気信号に変える代表的な方法が「静電容量方式」です。おもりと固定電極の間の微小な隙間が、おもりの動きで変化します。この容量変化を回路で読み取り、加速度に比例した信号に変換します。スマートフォンの画面回転検知や自動車のエアバッグ作動判定にも、同じ原理のセンサーが使われています。
震度5強相当を検知すると遮断動作へ
BQX702は、震度5強以上の揺れを感知すると動作します。センサーが検知した加速度が、あらかじめ設定された震度5強相当の閾値を超えると「地震を感知した」と判定し、遮断動作のトリガーとします。
主幹ブレーカを落とす「擬似漏電」方式
面白いのは、遮断の方法です。BQX702は自分で直接電気を切るのではなく、「擬似漏電」を発生させて主幹の漏電ブレーカを落とすしくみになっています。センサーが反応すると、擬似的に漏電状態をつくり出し、それを検知した主幹漏電ブレーカが遮断する、という流れです。設置のときにN相一次側へ共締めした線が、まさにこの擬似漏電を伝える役割を担っています。
この設計には、停電をまたいでも取りこぼさない工夫もあります。地震波を感知してから遮断までの間に停電した場合は、復電時に強制遮断します。さらに、停電後8秒以内に震度5強以上の揺れが発生した場合も、復電時に強制遮断する設計です。揺れの最中に停電しても、電気が戻ったときにきちんと遮断してくれるわけです。
反応時間の長所・短所|「即時」と「3分」
BQX702には遮断時間の切替スイッチがあり、「即時」と「3分」を選べます。工場出荷時は「3分」に設定されています。この選択が、実は防災効果を左右する重要なポイントです。
3分設定(初期設定)のメリット・デメリット
メリットは、夜間や就寝中に地震が起きても、遮断までの3分間は照明が点いたままになる点です。真っ暗な中では、割れたガラスや倒れた家具でケガをするリスクが高まります。避難経路の照明を確保できる意味は小さくありません。
デメリットは、3分間は通電が続くため、その間に転倒した電気ストーブなどが可燃物に接触していると、発火のリスクがそのまま残る点です。特に無人時や就寝中で発見が遅れる状況では、このタイムラグがリスクになります。
即時設定のメリット・デメリット
メリットは、地震を感知した瞬間に主幹ブレーカが落ちるため、通電火災のリスクを最小限に抑えられる点です。転倒した暖房器具などによる出火を、より確実に防げます。
デメリットは、夜間に突然真っ暗になるため、避難時の転倒・負傷リスクが上がる点です。医療機器などをお使いの家庭では不向きな場合もあります。
わが家はどちらを選んだか/選び方の目安
ここで一つ注意点があります。パナソニックの資料でも、医療機器や生命維持装置、防犯機器のほか、パソコンやサーバーなどの情報機器がある場合は、遮断されない回路を用意するか、無停電電源装置(UPS)の準備が推奨されています。わが家では自宅サーバーを常時稼働させているため、この点は導入前によく検討しました。突然の遮断で機器に負担をかけないよう、UPSと組み合わせておくと安心です。
選び方の目安としては、日中の在宅が多く、常夜灯やヘッドライトなど別の光源を確保している家庭は「即時」、高齢者や小さなお子さんがいて夜間の暗闇での避難が心配な家庭は「3分」が向いているとされます。ご家庭の暖房器具や生活スタイルに合わせて選ぶのがよさそうです。わが家はデフォルトの3分としました。
交換時期の目安は約10年
なぜ10年なのか
BQX702には交換時期をお知らせする機能があり、使用開始から約10年が経過すると、電源表示灯の点滅とブザー音(ピピッ、ピピッ)で交換時期を通知してくれます。
なぜ10年なのか。パナソニックの公開資料には具体的な律速部品までは明記されていませんが、一般的な電子機器の設計から考えると、内蔵の制御回路に使われる電解コンデンサの設計寿命が影響していると考えられます。電解コンデンサは内部の電解液が経年で徐々に蒸散・劣化するため、電子機器の寿命を決める最も典型的な部品です。10年という数字は、電解コンデンサの一般的な設計寿命ともよく一致します。
加えて、MEMSセンサー周辺のはんだ接合部や樹脂パッケージの経年劣化、湿度・温度変化の繰り返しによるストレスも、精度低下の要因になり得ます。防災設備である以上、いざというときに確実に動作することが何より大切ですので、10年を目安に交換するという設計は理にかなっています。
まとめ|備えの一つとして
感震ブレーカーは、地震そのものを防ぐことはできませんが、地震の「後」に起こる通電火災を防ぐという、明確な役割を持った装置です。加速度センサーで揺れを感知し、擬似漏電というしくみで主幹ブレーカを落とす。そして遮断のタイミングは「即時」と「3分」から選べる。設置してみて、シンプルながらよく考えられた製品だと感じました。
設置後は、遮断時間の設定をご家庭に合わせて見直し、約10年での交換時期も頭の片隅に置いておく。それだけで、万一のときの安心感がぐっと高まります。地震への備えの一つとして、検討してみる価値のある装置でした。

