イランがホルムズ海峡通過タンカーに1バレルあたり1ドルの通航料? 元は取れるの?

📋 この記事の目次

  1. 何が起きているのか
  2. 通航料の仕組み
  3. タンカーのサイズと金額感
  4. 荷主は損するのか?お金の流れを見る
  5. 「割に合う」のかを考える
  6. 国際法的な問題点
  7. まとめ

① 何が起きているのか

2026年4月、米国とイランの間で2週間の停戦が成立しました。この停戦の条件として、イランはホルムズ海峡を再開放するとしましたが、同時に通過するタンカーに対し1バレルあたり1ドルの通航料をビットコインで支払うよう要求しています。

ホルムズ海峡は幅わずか34kmながら、世界の石油の約20%が通過するエネルギーの大動脈です。今年2月末に実質的に封鎖されて以来、原油価格は61ドル→最大128ドル近くまで急騰しました。

② 通航料の仕組み

イラン石油・ガス・石油化学製品輸出業者連合の報道官がFT(フィナンシャル・タイムズ)に明らかにした内容によると、手順はこうです。

  1. タンカーが積み荷の詳細をイラン当局にメールで報告
  2. イランが査定を完了(武器の有無なども確認)
  3. 「数秒以内」にビットコインで支払い(制裁追跡を回避するため)
  4. 通過許可が下りる

※空荷のタンカーは無料。満載の場合のみ課金。

③ タンカーのサイズと金額感

「1バレルあたり1ドル」と言われてもピンと来ません。タンカーの大きさ別に実際の金額に換算すると以下のようになります(1ドル=150円換算)。

タンカー種別 積載量 通航料(ドル) 通航料(円換算)
Aframax(中型) 約70万バレル 70万ドル 約1億円
Suezmax 約110万バレル 110万ドル 約1.6億円
VLCC(大型・主力) 約200万バレル 200万ドル 約3億円
ULCC(超大型) 約310万バレル 310万ドル 約4.6億円

④ 荷主は損するのか?お金の流れを見る

石油トレーダー(荷主)は中東でFOB価格(産地渡し)で原油を買い、運んで中国などの精油所にCIF価格(運賃・保険込み)で売ります。売値(CIF)=買値(FOB)+運賃+保険+利益という構造です。VLCC(200万バレル)1航海のお金の流れをステップごとに見ていきます。

▼ 平時(2024年・通常市況)の場合

通常の運賃水準:約$30,000/日 × 40日 ÷ 200万バレル = $1.5/バレル

売値 売却価格(CIF):63ドル/バレル
VLCC総額 → 1,260万ドル(約19億円)
買値 中東での仕入れ価格(FOB):△61ドル/バレル
VLCC総額 → 1,220万ドル(約18.3億円)
粗利 粗利益(差額)= 2ドル/バレル
ここからコストを差し引いていきます
運賃 タンカー運賃:△1.5ドル/バレル
約$30,000/日×40日 → 総額120万ドル(約1.8億円)
保険 保険料:△0.1ドル/バレル
通常の海上保険のみ
通航料 イラン通航料:0ドル
平時は不要
利益 正味利益 = 0.4ドル/バレル → 総額80万ドル(約1.2億円)
2.0 − 1.5 − 0.1 = 0.4ドル。薄利だが黒字。
⚠️ ここに通航料1ドルが加わると? 0.4 − 1.0 = △0.6ドル → 即赤字。平時なら利益を超えてしまいます。

▼ 危機下(2026年3月)の場合

危機時の運賃水準:約$400,000/日 × 40日 ÷ 200万バレル = $8〜16/バレル

売値 売却価格(CIF):128ドル/バレル
VLCC総額 → 2.56億ドル(約384億円)
買値 中東での仕入れ価格(FOB):△103ドル/バレル
VLCC総額 → 2.06億ドル(約309億円)
粗利 粗利益(差額)= 25ドル/バレル
封鎖で価格差が平時の12倍以上に拡大
運賃 タンカー運賃:△16ドル/バレル
約$400,000/日×40日 → 総額3,200万ドル(約48億円)。平時の10倍超。
保険 戦争リスク保険:△4ドル/バレル
戦争リスク保険が急騰 → 総額800万ドル(約12億円)。平時の40倍。
通航料 ⭐ イラン通航料(今回新設):△1ドル/バレル
ビットコイン払い → 総額200万ドル(約3億円)。コスト合計21ドルの約5%。
利益 正味利益 = 4ドル/バレル → 総額800万ドル(約12億円)
25 − 16 − 4 − 1 = 4ドル。通航料を払っても十分な利益が残ります。
💡 まとめ:粗利が平時2ドル→危機25ドルへ拡大したことで、高い運賃・保険・通航料をすべて支払っても4ドルの利益が残ります。通航料1ドルはコスト全体の約5%にすぎません。

⑤ 「割に合う」のかを考える

✅ 現在の危機下では「割に合う」

危機のピーク時、中東〜中国ルートのVLCC運賃は1バレルあたり約16ドルまで急騰していました。そこに1ドルの通航料が加わっても、追加コストは全体の約5%にすぎません。停戦合意後、原油価格は15%超下落して95ドル前後まで戻りました。海峡閉鎖中の128ドルと比べれば大幅安で、荷主には「1ドル払っても」通りたくなります。

❌ 平時なら「利益が吹き飛ぶ」

平常時の荷主の利益は1バレルあたり0.4ドル程度しかありません。そこに1ドルの通航料が課されれば、利益を超えて赤字に転落します。

⑥ 国際法的な問題点

ホルムズ海峡は国際水域であり、「無害通航権」は1994年発効の国連海洋法条約(UNCLOS)に明記されています。通航料の徴収はこの根本原則に反します。オマーンの運輸大臣は「海峡を通過する船舶に通航料を課すことはできない」と即座に反発し、自国は航行の自由と安全を保証する協定を締結済みだと表明しました。

⑦ まとめ

  • VLCC1隻あたりの通航料は約200万ドル(約3億円)
  • 支払いはビットコイン、メール申請制という異例の方式
  • 危機下では通航料1ドルはコスト全体の約5%になる
  • 平時なら荷主の利益(0.4ドル/バレル)を超えて赤字転落するレベル
  • 国際法上は問題があり、実施できるかは依然不透明

イランにとってこの通航料は単なる収益手段ではなく、海峡支配の既成事実化と制裁回避(ビットコイン決済)を同時に狙った戦略的な一手と言えます。今後の交渉の行方が注目されます。

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